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私が推薦するこの10冊(2006年度選)

 新年おめでとう。今年もお互いに頑張ろう。
 だれがこの世界を動かしているか。
 そのヒントは、世界一の発行部数を誇る週刊誌TIMEが教えてくれる。昨年のPerson of the Yearはなんと、表紙の鏡に映ったYOU。「読者よ!あなたが主役なんだ」
 この解説は、松本アカデミアのブログでも紹介されているので省くとして、プロならTIMEをどう読むか――いかなるインスピレーションを得るか――述べてみよう。私はTIMEから英語表現を学ぼうとはしない――生き方(文化)を吸収しようとする。剣道の達人は、剣を意識しない。つまり剣と一体化し、剣が無くなる域を夢見る。英語道の達人は、人が英語を話すのではなく、英語が人を話す域であり、この域を名人とするなら、まだ私はその域に達したとは言えない。
 TIME英語にのる(rolling)には、日頃から問題意識を研ぎ澄ませ、ひらめきを求めることだ。この目が醒めるような内容(英語表現でなく)にぐっときたと思った時、その時点で英語は消えている。そして、この無我の状態で身についたのが自然の英語(natural English)である。
 だから、どうしても多読、多聴となる。英語をナチュラル・リズムでゲットすることだ。紘道館の精神はインプット、インプット、そしてインプットだ。検定試験のためのインプットではない。あくまで、自分に克つ「行」のためだ。
 昨年の6月末はまだ63冊しか読んでいなかった。英語界の武蔵が世界の舞台に踊り出るのだ、という自己PRのために駈けずり回っていたからだ。アウトプットのために読書量が落ち込んだ。すべて空回り。この時、英語武蔵はどうしたか。狂ったように読書に戻った。年末には204冊。そのうち原書は44冊。私の人生で初めて200冊を突破した。目標は週一冊から、一日一冊というノルマを自分に課した。

ここで道友のために、私の推薦本を10冊選ばせていただく。


1. 『On Relationship』J.Krishnamurti著
  私が尊敬するインドの宗教哲学者。『Freedom from the Known』もお勧め。「固定は死」といった武蔵を学者にしたような「空」の哲人である。
   
2. 『偽イスラエル政治神話』ロジェ・ガロディー著、木村愛二訳
  第二次世界大戦の「裏」を覗きたいジャーナリスト必読の書
   
3. 『やちまた』足立巻一著
  本居宣長の苦悩を描いた力作
   
4. 『阿字 ― 炎の行者池口恵観著
  私も恵観和尚の下で、護摩行を受け、額に一ヶ月残る火傷を蒙った。そして炎の男に戻った。
   
5. 『火の路』松本清張著
  こんな小説風のドキュメンタリーを読めば、三島由紀夫が身震いしたに違いない。火の国、ペルシャ、イラン。今の中近東問題の原点を垣間見る。
   
6. 『塩の道』宮本常一著
  司馬遼太郎が恐れた民俗学者の作品。鬼才ぶりがうかがえる。
   
7. 『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』橋本治著
  この本で私は、三島由紀夫が「磁石に憧れた電池人間」だったことを発見。
   
8. 『鬼降る森』高山文彦著
  高千穂が生んだ若き文豪。神話を身近に感じさせる名著。同氏の『火花』を読めば、川端康成の「情」(なさけ)に触れ、熱き泪が流せる。
   
9. 『できる人は禅の心を知っている』箱田忠昭著
  英語プレゼンの第一人者。人は氏の技を盗もうとするが、氏の「行」を学んではどうか。
   
10. 『The Power of Myth』Joseph Campbell著
  今年のいちおし。日本語の「神話の力」より、やはり原書がお勧め。
 

 どうだ、1年間に数十冊しか読んでいない人のベストテンと違って、200冊のうちの10冊だから、説得力が違うだろうと、己惚れてみたいところだが、そんな自我を壊してくれた師がいた。年末手にした先述のTIME ―― しかも目立たぬこの記事。
 The Constant Critic(ペースを崩さぬ論評家)。Harriet Klausner女史(54)は、アマゾン・ドット・コムのナンバー・ワンの評論家で、これまで35年間1日も欠かさず、必ず一冊は論評してきたという。自らをa freaky kind of speed-reader(速読の鬼)と称するクラウズナー女史は、1日4〜6冊は目を通すという。go through(目を通す)ことが速読といえるかどうかは別にして、彼女の次のセリフはにくい。
“It’s incomprehensible to me that most people read only one book a week. I don’t understand how anyone can read that slow.”(December 25, 2006 / January 1, 2007, P.30)(週に一冊なんて、どうしてそんなに読むのが遅い人がいるのか、信じられない)
 一読者である私が馬鹿にされている(She’s putting me down.)と、考えるのは1をスタートに考える電池人間。ところが私はゼロをスタートに考える磁石人間。切れることはない。叱られて楽しいのだ。言い訳はしない。20年前、全米で最大規模を誇るエヴァリン速読学校で聴講させてもらった時に会った婦人も、クラウズナー女史と同じ年頃の女性インストラクターであった。そして彼女も同じことを私の面前で言った。
 「ええ? あなたはTIMEを1冊読むのに1時間もかけているの? 時間のムダね。私は15分ぐらいでカバー・ツー・カバーが読めます」と。「行はつらい」と思わず、「つらいから楽しいのだ」と開き直って考えれば、磁力のある道友(magnetic friend)だ。私と道草を楽しみたい人、検定試験で疲れた人、紘道館へ来て遊ばないか。

 
 
2007年1月3日
紘道館館長 松本道弘