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「間」は英訳できるかC

「あいつは自分に酔っているだけさ。自意識の強いやつめ。(He’s so full of himself)」とだけは言われたくない。小学五年生でもわかる語り口調で解説する、池上彰の足元にも近づけない。いや、オレもプロだ。集中だ。集中、集中、集中。
あっという間に三十ページぐらい読破できた。もう一時間たった。ここでクリームをいれよう。まず、スプーンでかき混ぜたあと、クリームを入れる。ゆっくり白い渦が広がる。ミルクが沈まない。良質のクリームに違いない。
あと十分ぐらいの間に考えをまとめよう。残心だ。
TIMEの記事にあった、カサリン・ビッグロウという女性映画監督も間の取り方がうまい。さすが、時間の管理学に長けた芸術家だ。エネルギーを集中させて、一歩引き下がる。プロットの意外性を活かせるのもspaceだ。私も見て感動した話題作「Zero dark thirty」のディレクターだが、作品に遊びがある。Good guys are bad guys. Bad guys are good guys.という両極端のバランスの取り方はまさに監督のプロ。彼女は芸術家であった―今も。
このbalanceも「間」だと教えてくれたのもTIMEだ。手元にあるもう一冊のTIMEのカバーにMacro Rubioという若き政治家が載っている。不法移民のおじを持つルビオが、共和党の希望の星として輝き始めている。民主党のオバマと比較されている。オバマも白と黒の中間的な存在だが、このルビオも違法と合法の中間地帯にいる。彼の成功の秘訣はズバリbalanceだ。どちらにも偏らないことを、「バランスをとる(striking a balance)」と呼び、それを政治信条としている。母が”Don’t mess with immigrants.(移民者たちにちょっかいをかけるな)”と諭すが、自分の置かれている立場は違法者を取り締まること。だから、つらい立場だ。彼の行動哲学も「ゆらぎ」が活かされたbalanceでなくてはならない。
世界最古の木造建築と言われる法隆寺五重塔も、心柱が左右に揺れるので震度六の地震でも倒れない。この建築技術には「遊び(being idle)」が活かされている。英語をモノにするための知恵とは、ゆるぎという「遊び」ではないか。
エジプトのcoffee farmerたちに感謝しながら思考を遊ばせる。英語の鬼になろうと、必死にTIMEを追う人は鉄人だ。しかし鉄人は息抜きを知らないから達人になれない。break のルールさえ守ればだれでも努力次第では達人にはなれる。しかし名人にはなれない。名人になるには努力を捨てる遊びの心がいる。
 宮本武蔵は「五輪書」の中で、拍子という言葉を使うが、ネイティヴの翻訳者はrhythmと訳す。プロの同時通訳者なら、状況に応じて「間」をrhythmと訳すかもしれない。Rhythmとはdynamic space のことだから、「間」そのものだ。英語術においては、TIMEはただの雑誌であり、それはmatterであるが、英語道においては、それがspiritに変わる。Spiritは固定を嫌う。「たかがTIME、されどTIME」をこう訳してみよう。TIME is just a magazine; but it’s not just the magazine.  a magazineをthe magazineに化学変化させてしまう。その謎は、just にある。Justは上記のような存在だが、このjust という「間」が使えると、英語道の有段者「黒帯」だ。なぜって?I just……ま、そういうこと


 
 
2013年5月21日
紘道館館長 松本道弘