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私は猫が好きだ

 私は猫が大好きだ。
 猫が私を好きかどうかは判らないが、それでもいい。
 英語でいえば、私はキャット・パーソン。
 猫はとにかく、気儘でマイペースなのだ。
 主人である私と対等の立場でつきあう。
 家猫の甘えがある。そんな奴なのに惹かれるから、憎らしい。
 絶滅しかかっている西表山猫(イリオモテヤマネコ)の爪の垢でも煎じて飲んだらどうだ、と時には毒づきたくもなる。
 もし、飼い猫が捨てられたらどうなる。
 野良猫 ―― 英訳すればホームレス・キャット。
 ジャングルでどうやって家猫が生きていけるのか、やはり気になる。
 今日、初めて西表島(イリオモテジマ)でイリオモテヤマネコの生態を調べた。
 観光客が夜行性のイリオモテヤマネコを発見することはまずない。
 観光船に乗り、マングローブの森林を眺めながら、こんな密林で猫がどうやって生き永らえてきたのか、と考えると気が遠くなる。
 家猫より体が少し大きく、しっぽも少し太いだけだが、気迫がまるっきり違う。猜疑心と自立心があり、完全に自己完結型だ。
 まず、好き嫌いがない。蛇、トカゲ、カエル、植物、クモ、鳥、貝、魚――なんでもござれ。
 好き嫌いがあっては、こんな孤島では生きていけない。
 貝や魚まで?
 そう、イリオモテヤマネコは、水泳が上手である。跳び、走り、泳ぎ、穴を掘ってそこで眠る。危機管理は怠らない。
 食物連鎖の頂上にいるから、猫というより小型のトラかライオンのようである。
 イリオモテヤマネコに敵はいない。
 闘うばかりか、情報収集にも長けている。
 家猫とは違って、砂を蹴ってウンコを隠そうとはしない。
 仲間のネコたちが、そのウンコを調査する。
 「うーん、このカエルを食えば下痢を起こすか」と、情報は共有しながら、種の保全に余念がない。
 この近くに、尖閣列島がある。日本の領土だったが、事実上中国のものとなった。近寄りたいが、と防衛関係の人に訊ねると、「それができないんです。中国と領土のトラブルを起こされては困るというのが政府の見解でして。私も調査に行きたいんですが」とあしらわれた。
 イリオモテヤマネコなら、見つからないような隠密行動をするだろう。頼んでみればよい。「君たちも忍者として、日本の幕府に召しかかえてもらったらどうだい」と。イリオモテヤマネコはニャンともいわない。そして、遠くからじっと我々の眼をみつめながら、こんなメッセージを送るだろう。
 「オレたちに仕事を与える前に猫権≠ニやらを守ってくれよ。オレたちを殺しているのはあんた方、人間の車なんだから」
 猫の天敵も黙っていない。
 「だから、こうしてイリオモテヤマネコを絶滅から守ろう、というキャンペーンを起こしているんじゃないか。我々はあんた方の味方だ」
 「よくいうよ。殺しているのは、あんた方人間だよ。宮崎駿に言ってくれよ。『もののけ姫』の撮影で屋久島を訪れたんだから、『ヤマネコの神隠し』ぐらいのロケをこの西表島でやったらどうだ。あんた方のキャンペーンより、もっと効果があるはずだ」
 一句浮かんだ ―― 山猫を 活かす島なら 殺すなよ 。

 
2007年1月9日
紘道館館長 松本道弘