ライシャワー大使宅で知って驚いたことは、ライシャワー氏ご自身というより、氏の奥さん、ハル夫人の英語力と情報力であった。
二人が真っ向からディベートの火花を散らし、お互いに一歩も譲らない。
その情報量の豊富さ。そして品格。
その時、私はハル夫人の歴史認識の深さ、それにディベート能力に舌を巻いた。ライシャワーを負かす論客が、日本人のハル夫人であったことをまざまざと見せつけられたからだ。私はプロディベーターだから、判定には自信がある。
博学のライシャワー大使の陰でひっそり咲いていた大和撫子 ―― 。
耐えて、耐えて、歯ぎしりし、テーブルの下でハンカチを握りしめるタイプの伝統的日本女性などではない。しかし、ディベート(議論+品格)というスキルで、夫をひとかどの論客に育てあげた陰の実力者はハル夫人ではなかったか。
そして、日本からの著名な来客者の前で、夫人に堂々と反論させるハラを見せたライシャワー大使も役者だ。
さすが、師・西山 千が尊敬するライシャワーは大物(big-time)であった。
師が、奥さんを立てる態度も、ライシャワー譲りだったのかもしれない。
お二人とも、上下関係やメンツにとらわれない御仁だった。
師・西山 千と私は、同時通訳のブースを離れると、コーヒーを飲みながら、よくディベートをし、お互いに触発しあったものだ。
……勝海舟と西郷隆盛の対決は、腹芸(the Haragei)であったかどうか……
余談ながら、この師弟ディベートが私のハラゲイ論(英文は『The Unspoken Way』講談社インターナショナル)に結びついた。多謝。
詳しいことは、今、喪中執筆の結果、世に問うつもりだが、師の西山 千氏は、いかなる反論をもクールに受けとめ、物事を前向きに考えるディベーターでもあった。
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