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英語道無惨 ―― 秘すれば花(急 ― その3)

前回の「急―その2」に続く。

私はディベーターであり、物事を相対的に観るクールな面がどこかにある。
よく企業訓練で、「我社の新入社員には、スポーツマン・タイプか武道家タイプのどちらが好ましいか」という論題でディベートをさせることがあるが、いつも白熱する。

私は武道家を優先させるべし、という側に立った方が説得力があるように思うが、それでも反対側に立てば、武道家タイプのマイナス面を効果的に突くこともある。

たとえば、元柔道金メダリストの猪熊功が、社長室で首を掻き切った事件がある。
戦う相手がいなかったほどの強豪であった。
その孤独な柔道家に目をつけたのが、東海大学創始者、松前重義総長であった。

(東海大学柔道部の師範になってくれないか)

ノドから手の出るようなオファーだったが、猪熊はある条件をつけた。
実業界において活躍できる場が欲しい ―― と。
柔道だけの人生から脱皮を図ろうとした。

これは、『新潮45』9月号に寄稿した、ノンフィクション・ライターの恩田揚子の見解だが、私はもう少し想像を膨らませたい。
スポーツ化した柔道に未練がなかったのでは…。

あの小兵の猪熊(173センチ、86キロ)は、小が大を、柔が剛を制する柔道の醍醐味を教える場を失ったのだ。
悲しかったに違いない。

(急 ― その4)に続く。


2007年9月24日
紘道館館長 松本道弘