前回の「急―その3」に続く。
松前総長の信頼と愛顧を勝ち得た猪熊は、秘書的な役割から側近中の側近となる。西郷隆盛のようなお庭番だったのだろう。
その西郷が上司を失ったように、猪熊は人生の師、松前重義を失い失意のドン底になる。
松前重義のあとを継いだ長男・達郎は力不足で、合議制に頼ることになった。
猪熊の立場は、パトロンを失った芸術家のごとく、見る影もなくなる。
大学からの資金援助もストップ。
周囲の嫉妬が復讐を始める。
猪熊の自殺には、「自分が敬愛する松前重義から託された会社を倒産させるに至った責任」が大きかった。
(このままのうのうと生き恥をさらすことはできない。世間から成敗を受けるより、切腹を選ぼう)と決意したのではないか。
武士道無惨!
猪熊がスポーツマン・タイプだったらと思う。
かつての柔道金メダリストという名誉は、猪熊にとりゼロであったのではなかったか。
金、銀、銅 ―― すべて虚。
それでも英語道の私は、武道家の道を選ぶ。
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