ふらっとニューヨークへ立ち寄った時のことだ。
フロントにメッセージが残っていた。
「Xという者ですが、是非お会いしたい。ホテルへ参上します」
X? 聞いたこともない。
初めて会ったその男は、私の奇怪な行動の一部始終を知っていた。
それでも、私の本は一冊も読んだことがない、と言う。
X氏から、アメリカ流通業界の驚くべき裏話を教えてもらった。
ソニーと松下のビデオでの対決は、すでに勝負がついている、という裏情報(intelligence)も教えてくれた。
その情報収集能力 ―― まるで忍者。
アメリカ経済、そしてビジネス業界の隅々まで知っているというから、ものすごく斬れる英語の使い手であろう。
この忍びの者、存在が気になる。
私の本を一冊も読んだことのないこの男が、どうして私に近づいたのか。
「実は私は、松本亨博士の一番弟子でした。先生は覚えていらっしゃいますか。あの原宿のオフィスへ来られた時のことを…」
「あまりよく覚えていませんね」
「あの時、私は受付で事務をしていました」
「それだけの理由で、この私に会いたいと…?」
「もうあれから十数年になりますが、是非先生にお会いしたいと…この機会をずーっと狙っていました」
「よく判らんが、なぜ君が私に…?」
その4へつづく。 |