背水の陣。
大阪から単身で上京してきたこの狼藉者の私を、いやあの時の私の死相を、追いかけてきたのだ。
(お主、やるのう…)という火花が二人の間で散った。
たった一夜の出会いで、もう二度とお互い会えないことも、どちらも承知だ。
「じゃ、またぼくの本でも読んで下さい…」と私は気を許した。
「読みません。読めば、先生の弟子になってしまうでしょう。その自分が恐ろしいのです…」
「………」。 少し間をとって、その謎の男は言う。
「私の師は、生涯、松本亨先生一人です。…この師匠を慕い続けます」
―― それでよい。それでよい。
こんな清々しい出会いは、歌舞伎の世界でしか通用しない。
情理の世界だ。
あの日の夜から、何十年も経った。
英語を日本刀として、異種格闘技の人生を歩み続けている二人の武道家。
あの一瞬のすれ違い。
今考えても身が縮む。
あのニューヨークの夜。
この弟子にして、あの師匠。
松本亨博士。
とんでもない人物に、私は挑んだものだ。
英語道無惨! |