ヒラリー議員を支えんと、必死に応援演説する夫のビル・クリントンも空気が読めない。 なぜ、そこまで目立ちたいのかと国民はすっかり白けてしまっている。ご本人が気づいていないから、余計に厄介だ、とTIME誌が特集の中で酷評している。
日本の社会で、浮き上がる一番手っとり早い方法は、空気を無視して、一方的に自己主張することだ。こういう点がコワモテされてリーダーになった暁には気の毒だが必ず裸の王様になる。
ただし憎まれ役に徹し、マスコミに騒がれ、人気を浮揚させる業種――芸能界や政界――のセレブなら話は別だ。
厚顔無恥はイディッシェ語でフツパ(chutzpa)というが、ユダヤ人がマスコミや芸能界で成功する秘訣は、空気と闘う図太さだ。テレビに出ようとしたら、人を押しのけても平気というフツパが要る。CNNのラリー・キングは衛星インタビューで私にそう語った。
私がNHKの人気番組の『英語でしゃべらナイト』にゲストとしてスタジオに招かれたとき、「シーズンUは<英語で闘わナイト>にしたらどうか」といちゃもんをつけた。ユダヤ流のフツパを用いて、ソフト英語をご本尊としているNHKの「空気」に、私流のタフ英語哲学が殴り込みをかけたことになる。
勝負師の武蔵なら、十分、空気を読んで、敵の拍子(リズム)を外せよ、というだろう。「共通の(だれでも立てる)土俵」を英訳すればthe level playing fieldとなろうが、素浪人の私が25年ぶりにNHKのスタジオに出るのだから、この水平の遊戯場では、私は不利な立場に置かれることになる。
英語界の武蔵じゃ、まずい。NHKサイド(プロデューサーやディレクター)は、徳川家を守る柳生一族の剣豪たちが蟠踞している。
スタジオで顔を合わせる芸能人や俳優たちは仲良し仲間ばかりだから、一匹狼の私にはその空気が恐ろしい。
タフ英語を信奉する私はこの種の番組を敬遠して、観なかったので場の空気が読めないことが不安だった。
その3に続く |