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サムライと『イカの哲学』 〜その1〜

「サムライ教育」イベント(3月29日)が近づいてくると、同時通訳者としてのかつての私の血が騒ぎ始める。ブースに入る前は黙想(國弘正雄氏の影響)をする。あとはどうなってもいい。死地へ飛び込むだけだ。身を捨てて、浮かんでみせるのだという覚悟をもった同時通訳者はある意味で神風特攻隊だ。Go for it!

そんな心境になると、却って心が落ちついてくる。遊び心が甦ってくる。
ふと手にした本が『イカの哲学』(40年前に波多野一郎により書かれていた)。イカ、そして中沢新一。どちらにも興味がある。その異質のコンビをさり気なく編む編集者の芸術的感覚は心憎い。

特攻隊の生き残りで、戦後スタンフォード大学に留学した在野の哲学者波多野一郎が著した『イカの哲学』が問題意識のある人々の関心を引く。
案の定、磁石人間の中沢新一氏が惹かれた。

磁石人間同士の一瞬の邂逅は、お互いのserendipity(当てにしない珍宝を偶然に発見する才能)を高め合う。このセレンディピティーはアラビア語のsarandib(Ceylon+ITY)からきている。Horace Walpoleがおとぎ話(The Three Princes of Serendip)の題名から作った語。この主人公たちは捜してもいない珍宝をうまく偶然に発見したという。
本書を手にした時に生じたセレンディピティーを発火させたのは何か。

イカと特攻隊とカマキリが偶然に結びついた ―― その心のことだ。
カマキリ(師匠西山千のシンボル)がなぜ早く死ぬ(6ヶ月)ことにより、種族が生き続けるのか、日頃から不思議に思っていた。
生物界の中に武士道らしきものがあるのか ―― 自分という個よりも、大きなもの(尊いもの)―― のためには、生命(いのち)を捨てるという覚悟が。

その(2)に続く

2008年3月25日
紘道館館長 松本道弘