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森光子と英語道 〜 その2〜

私自身に同じ質問をする。
「英語人生に飽きませんか」
「飽きません」

「どうしてですか」
「英語が自分の生命を守る武器だからです」

「先生は68才、振り返ってみて……」
「私の英語人生は今年から始まっています。来年が楽しみです」

「いつまで英語人生をやるおつもりですか」
「眼と口と耳がある限り」

「いまどんな訓練をしていますか」
「ネイティヴ向けの英語のインプットなら疲れません。DVD英語なら24時間ぶっ通しで観られます ―― 睡眠数時間あれば」

「体力の維持の方法は」
「この十数年間、発声と体力維持のための忍者体操を続けています。紘道館ではときどき公開もします」

「挑戦の相手は」
「舞台に集まる観客です。月一回の紘道館での主演では物足りない、もっと勝負がしたい」

「なぜ舞台が真剣勝負の場ですか」
「人の眼が光っているからです」

「それがなぜ勝負ですか」
「できれば、ネイティヴと共に自分の技を研ぎ続けたいから。恥をかく覚悟がなければ、技は伸びない」

「どんな方法で」
「同時通訳とディベートです」

「その心は」
「どちらも、瞬間芸だからです」

「なぜそこまで」
「私の師、故西山千の技を盗みたいからです」

「もう過去の人の?」
「霊は死にません。今も西山先生は、千の風になって私を見守っていてくれています」

これを書き、愧じ入った。芸人にしては、余りにもご立派過ぎる発言だ。かっこ良過ぎるのは、よくない。あくまで頭を低く、自分の師匠を誇示することすら面映いとへりくだらなければならない。

そこで名女優・森光子に戻ろう。
私が森光子に興味をもったのは、大阪ナンバの花月劇場で、桂三枝の落語を聞いた時だ。
森光子の話が出た。

ある中年女性が、大ファンの森光子を見つけて、新幹線のドアまでかけつけた。
発車寸前だったと思うが、サインを求めるには色紙も何もない。やむを得ず、手元にあった古い新聞紙に、サインを求めた。失礼な話だ。

その時、森光子は、表情を変えずに、いつもの笑顔を絶やさず、「念ずれば、花開く」とマジックペンで書いたらしい。
その後、その女性は、その新聞紙を壁に貼って念じ続け、ビジネスを軌道に乗せ、大成功させた。そして森光子大明神に、多大の寄附をしたという。

この話で目頭が熱くなった。到底、私にはできない芸当だ。松本道弘の英語道、破れたり。

2008年4月25日
紘道館館長 松本道弘