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ドサ回り芸人の眼 〜 その1〜

ここは雪国、越後湯沢、その名も知れた高半旅館。川端康成が小説『雪国』を書いた、秘湯の聖域(いやしろち)。陸の孤島なのか。温泉が発見されてから800年、今も加水、加熱、加剤もなく、この飲める湯は湧き続けているという。執筆場所にこだわるプロの物書きにはこたえられない風趣な味わいがある。

風趣。そして宿の品格。
朝風呂につかりながら、窓外の山肌に眼を映すと、まさに銀世界。雪の結晶には氷柱(つらら)の如く品格を漂わせる情趣がある。風格というべきか。その心はどうにでも化ける水であろう。

―― 水。
液体の水が固まって、氷。固体なのに沈まず、浮上し、人目に曝け出す。これが氷の品格。雪片が集まると風格に昇華する。

しかし待てよ。ここは雪山の温泉宿。地下に眠るマグマが熱湯を流し続けている。
氷の品格と、火の気概に挟まれて、湯につかっていると、浮世離れする。「空」の心境に没入すれば、究極の幸福感に浸ることができる。

旅人で良かった。しかし、こんなことが許されるのか。
「許されない」という人がいた。独楽(こま)ネズミのように多忙な山元学校の山元校長だ。「先生。そりゃ許せません。犯罪行為ですよ、そんなぜいたくは」
携帯電話による戯れ言とはいえ、核心を突いておられた。

民俗学者の柳田國男なら、半ば憤りながらこう答えるだろう。「旅は行なんだ。遊びじゃない」と。高半に投宿する前の2日間、佐渡ヶ島の民宿長浜荘で、遊学を続けていた。
飲み友達になったジェンキンス氏とも長話をした。

こんな脱走兵まで、ここの島人は快く迎える。歴史的に証明されたSado hospitality。
「島とは何か」――湯船につかって、思考を遊ばせた。
憂国の情がふつふつと煮えたぎってくる。佐渡ヶ島が沈めば新潟も、そして日本が沈むような気がする。

佐渡の将来は島国日本の将来ではないか。日本はどこへ行くのか。一流といわれた経済まで三流じゃないかといわれると立つ瀬がない。

その2につづく

2008年4月29日
紘道館館長 松本道弘