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ドサ回り芸人の眼 〜 その2〜

品格だけでは食えない。生きとるっちゃー、という気概が要る。
ジェンキンスは、北朝鮮では敵に囲まれていた。この平和な日本でホッとしていいはずなのに、ピラニアのようなマスメディアという仮想敵に囲まれている。
とくに妻のひとみさんが夫が目立つことを嫌っておられるらしい。二人の娘のプライバシーを覗きたがるメディアを刺激しないよう神経をとがらせておられる。

Who wears the pants in your family?
(あんたの家庭はカカア天下?)
と戯れに聞くと、YesともNoとも言わず、ただ一言。In North Korea I do.
(北朝鮮では、オレの天下だった)と答えた。
聞きとりにくい英語だが、ロジックは冴えている。

ジェンキンス氏と会ったのは、これで4回目だが、ようやく胸襟を開いてくれた。金正日を「ケーセッキ(犬の子)」と呼び、娘の美花を半ば卒倒させたという。朝鮮語では最悪の侮蔑の言葉だから、その場で処刑されても文句は言えない。

『告白』の中(P225)に書かれていることは本当かと聞いたが、本当だという。ケーセッキはbaby dogのことだから、ジェンキンスはよほど腹にすえかねたのだろう。
40年も北朝鮮にいれば、彼らの考えていることはすべてわかる。
ひとみさんの母は、即座に射殺されて、海へ沈められたに違いない。47歳の女性などがスパイとして使えるわけがない。

とにかく、外国語大学というものは、スパイ養成学校なんだから、という。
その時、私はふと考えた。北朝鮮の外国語大学はその目的が何であれ、何らかの国益に合致しているが、掃いて捨てるほどある日本の外国語大学は何のためにあるのだろうか。

「私はいつ日本で北朝鮮のスパイに射殺されるかわからない」というジェンキンス氏に、「そりゃ、考え過ぎだ(You're too paranoid)」という人がいる。
しかし、ジェンキンス氏は真顔で答える。日本人には北朝鮮の手口というのがわかっていない、と。日本に国防意識を教えてくれる数少ない人物の一人がジェンキンスさんではないだろうか。

佐渡の人は、懐が深い。配流されたどんな人をも受け容れる。こんな私でも。真の国際化は佐渡から始まるのでは。

その3につづく
2008年5月3日
紘道館館長 松本道弘