ヨレヨレのレインコート(それが嫉妬封じになる)が、モテモテのスターを引きずり落とす。人口の80%以上が抱くシャーデンフロイデを一手に引き受けて闘う刑事コロンボがアメリカのお茶の間の人気者となった。日本では私が必ず観たTV探偵シリーズの『古畑任三郎』がこれに匹敵する。
ようするに風采のあがらぬデカが超カッコイイ人生の成功者を引きずりおろす(take down)プロセスがカタルシス(浄化、いやし)を実現してくれるのだ。シャーデンフロイデを満たす「空気」はビジネスになるのだ。
ジョージ・クルーニーは、嫉妬管理術(jealousy management 私の造語)に長けている。TIMEによれば、彼はゲストになった時に、ホスト役をするという。気配りの冴え。TIMEレポーターが恐縮するほどの配慮。有名人はこうでなくてはならない。
37歳でNHKに見初められ、日本から一歩も出ずに、30分English-onlyというぜいたくなインタービュー番組を与えられた。30代後半のこの英語使いに、山本七平・佐伯真光という論客のジャッジが依頼されることになった。私はセレブになって舞い上がっていた。有頂天になっていた。海外へ行かずに、自分だけの努力でここまできた。何を書いてもベストセラーになった時代があった。
その頃の私は、公器として誇りのあったNHKという巨大メディアの影響力、そしてアメリカ大使館時代、同時通訳の師であった西山千氏にお世話になっていた頃のことなどコロッと忘れていた。ジェラシー・マネージメントを怠り、いつのまにか転落の人生を歩むことになる。
今年2月、25年ぶりにNHKのスタジオに招かれた。この25年間、長かった。転落人生の悲哀をいやというほど味わった。急上昇する人間は、急降下するものだ。
What goes up must come down.
(山高ければ谷深し)というが、この谷からはい上がり、カムバック・キットとして再浮上するのは並大抵の努力ではない。今、ジョージ・クルーニーの気配りをTIMEのカバーストーリーで読み、再び師・西山千の霊前で詫びたくなった。
しかし、師匠は墓をつくらず、自らの遺灰を相模湾へ撒かれた。そして西山千は千の風になって今も大空から、不肖の弟子の私を見守って下さっている。4月になれば庭のカマキリの卵から続々と幼虫に孵(かえ)り、その中からチャンピオンの一匹が、西山千師匠の再来になる。
この師と再開する儀式は、今後一生続けたい。(話がそれた。師の話になるとペンが勝手に動いてしまう)
その3につづく |