「その犯罪者をコントロールするのがウルフだ。ウルフがいなければ、人間も餓死してしまう。それでも肉食動物は残酷といえるのかね」
論客の中国人も、沈黙し、その長老をメンター(師)と呼ぶようになった。そのメンターが師事しているのが、野性の群狼なのだ。
戦略面でも狼は人間以上、と絶賛する。
三方からガゼルの集団を囲むのは、かつてイギリス人空軍が使い、そして現代のマーケティング戦略家たちが今も使っている「ランチェスターの法則」の基本哲学である。
狼は、いつの間にかその戦略を、本を読まずに学習している。狼は辛抱強い。待つ。追いかけても、ガゼルの足の速さにはかなわないことを知っている。だから、ガゼルの弱さを注意深く観察する。「やつらは多分たらふく食っている。朝方は尿意をもよおすだろう。そうすりゃスピードが落ちる。ようし、奇襲攻撃をかけるのは、明け方だ」。
この裏の情報(intelligence)と、生物的欲求などの知恵(wisdom)をフルに発揮する。この集団の知恵。強いものしか仲間に入れない。はぐれ狼(lone wolf)は群れるパワーのない狼。こういう狼を集めては、会社は倒産する。そんなケースは、ペンでは書けないが、いくらでもあるので、私塾(紘道館か、メンター・ダイヤモンド塾)でなら話せる。直会(なおらい)で続けるa fireside chatだ。
「狼には国境はない。狼はなあ、やさしいんだよ。自然の神様は狼が大好きなんだ。家庭想いでな。環境も大切にするし」
狼の組織論理はスパイラルだ。アルファ・ウルフ(夫婦・将と参謀)を中心に、ベータ・ウルフ、そしてそれを囲む、オメガ・ウルフ。君・臣・民と広がる。まるで君主制。
同じ屋根の下に棲んでいる。そして環境を大切にする。だから狼はモンゴル人にとり、師(メンター)なのである。その狼も天敵の人間のモノ思考の犠牲になり、減り続けている。
日本狼は絶滅した。過去を現代に戻すことはできない。死んだ狼のsoulは神の元へ戻る。
究極の縄文人間であるアイヌ(梅原猛説)は、イヨマンテ(熊祭り)を通じ、熊を大自然の神の元へ戻すというが、森林を中心にエコバランスを大切にした狼集団は、縄文人の心意気(collective spirit)を具現化していた。
狼を戻すのは、イリュージョニストか、それとも陽明学の「狂」の美学なのだろうか。 |