戦争、リストラ、失業、家庭崩壊、政治は迷走 ―― そんな苦いニュースを毎日目や耳にしていたが、まるで別世界のできごと。ところが、それらが急に現実のものになる。
リスク管理(if)がクライシス管理(when)に変る。
昨日、私の絵日記で初代英語武蔵を襲名し、利より名を重んずるという旨の口上を書き留めた。武士は命よりも面目を失うことを恐れる。
それがこの映画を観てから、思考が変った。男はどこまで面子を守らなければならないのか……と。
英語武蔵にとり、最大の危機管理の時期が訪れた。この映画の主人公のパパ(名優・香川照之)は渋い。心から拍手を送りたくなる。不朽の名作『生きる』を演じた志村喬とだぶらせる渋さがある。
どん底に堕ちても、パパとしてのプライドを失わない。私が最も感動したシーンは、トイレ掃除のときに拾って、ポケットに入れた万札入りの現金封筒(百万円は入っていたと思う)を、遺失物ボックスに捨てて去る、ところだ。
ライターの相田冬二の眼はこの場面を逃さない。
「プライドをゴミのように捨て去ったとき、真のカクメイは訪れる」
ここにサムライが死守するプライドがあった。
同じく私を感動させた映画『イントゥ・ザ・ワイルド』がたどり着いた真理、「しあわせとは人のために生きること」だったが、それはまだ問いかけのように感じた。その問いに対する解答はこの映画が教えてくれたようだ。
自分独りが生きるため。いかにどん底から這い上がるか。その希望を与えてくれる映画。面子とは何か。男の名誉とは何か。英語武蔵を襲名した私はこう思う。だれかが活きるときにしか、プライドを捨ててはならない。人の面子とはそれほど重いものだ。
いわんや武士の面目をや。
この映画はみんなに勧めたい。私ももう一度観たい。家族に少しでも隙間風のある人の全ての人に勧めたい。ふと戦後日本が失った「家」とは何かを教えてくれる。
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