あれから35年の今。Thirty-five years, later on.
当時、私のライバルやパートナーであった一騎当千の兵たちはすべてこの業界のリーダーになっている。
現役のプロのままの人もいる。
天下人(西山千、國弘正雄、村松増美)は消え、今じゃ表の小松達也、裏の原不二子という両巨頭の時代となった。
とくに、通訳業界での原不二子の存在は恐ろしい。
相馬雪香(西山千師匠とペアとなって、日本で初めて同時通訳に挑まれたパイオニア)の娘というから、バイリンガルだけでなく威光がある。
PRしなくても、顧客が向こうからくる、というマグネティックな女傑だ。
「私はサムライよ。平将門がついているから。権力に屈しないから裏の世界かもね」
まるで、男の私が口にしたいぐらい、かっこいいセリフだ。
女、強し。
彼女の同時通訳のクラスを見学させて頂き、参加者(プロとセミプロ)たちのレベルの高さに舌を巻いた。その後、6、7人のプロに囲まれ、近くで新年会を開くことになった。
全員女性だ。食っていくために、スキル向上に必死な人たちだ。私の補講も少しは役立ったようだ。細木数子の世界ではないが、商売(しのぎ)は、自分たちで見つけるわよ、という、気迫に満ちた強者(つわもの)たちだ。たのもしい。
このエネルギーが今の男たちに感じられない。life wishよりもdeath wish(死にたい願望)に苛まれ始めた気の毒な男たち。
その点女たちは生き生きしている。
セミプロ同時通訳者と歓談していると、女・紘道館の幹部に加えたくなる。
女の時代。
一人のセミプロのくのいち(女)がいう。「この業界(通訳)はほとんどが女。男のプロにはホモが多いとの噂を耳にします」と。だれも笑わなかったから、かなりの人口に膾炙した話なのだろう。
しかし、と彼女は続ける。「女同士が闘う時代が来ましたね」と。
そう、男同士が闘うというよりも、女同士が足の引っぱりあいから、あっという間に死闘を繰り広げる時代にかわってきたのだ。
その3につづく
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