私にオスの臭いのする男を一人あげよといえば、今日の時点で佐藤優だ。
――ロシア人の不文律では、友人間にカネの貸し借りはない。「貸してくれ」というのは、「うまくいったときは返すが、そうでないときはくれ」ということだ。したがって、「カネを貸してくれ」というのは、「カネをくれ」というのとほぼ同義だ。私の場合、ロシア人にカネを貸したことは百回以上あるが、戻ってきたのは二回だけだ。――(『自壊する帝国』新潮文庫 P.508)
べつにロシア人に限ったことではない。日本の政治家も、同じようなものだ。私が氏に関心があるのは、原理原則にこだわる点だ。
「そうだろう。僕も初めから返してもらおうなどという気持ちはなかった。だから別に文句はない。生活費や政治活動費ならば支援する。しかしビジネスに関しては断る。これは僕にとって原理原則の問題だ」(P.508)
これくらい、ズバーッと、しかも筋を通しながら、言い切れる日本男子がいるだろうか。外国人に対し、英語でIt’s a matter of principle. と。
好き嫌いとか生理的な理由で応じるようでは、男の世界で勝負はできない。
公のため、と大義名分をタテにディベート・交渉のできる女傑がこれからの日本に必要な人材となる。女を立てることの巧い男が出世する。
そして、男を立てることの巧い女が出世する。それがロジックだ。ロジックはバランス。
サイマルの小松達也氏(国際教養大学)は、通訳業界ではまさに男の「顔」だ。
「また次回も小松さんにお願いします、と頼まれても、私は断ります。サイマルはチームワークです。個人プレーが通用する世界では、クライアントに足元をみられ、値ふみされ、値崩れが生じるでしょ。ワタシがワタシが、オレがオレがと、各々が勝手に交渉を始めれば、通訳者の地位はいつまでたっても改善できません」
たしかに一理ある。裏のネットワークがあれば、表のネットワークもある。
将軍は忍者の存在なくては、生き残れない。国際企業とて同じだろう――通訳者という忍びの者の協力がなくては。
経営者が通訳者の力を借りずに、グローバル・ビジネスに挑むには、条件がいる。英語力と情報力に長けた忍者から学び、自らが英語でディベート・交渉のできる存在となることだ。男の時代の将軍は、さらに芸が細かい。得意な英語を隠して、通訳者を目立たせる。外国語が得意だからという理由で、すべて外国語で通すというのでは、芸が荒っぽ過ぎる。英語が全く通じないと感じさせるぐらいの、ハラ芸が必要だ。 |