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うーんと踏ん張る力 oomph

「ふん張る」「ふんどしを締める」はbrace oneselfとのfasten one’s seatbeltで間に合うが、この「うーん」という唸り声、呻き声が発するエネルギーの震源地はもっともっと深いところから生まれる。4月号(『國文學』)で述べたOops!(おっと失言)を思い出していただきたい。失言はblooperというウ音語。

もっと深いところといえば、ヘソより下部に位置する性感帯にまで届く。ヨガでいうクンダリーニ(蛇のエネルギー)を発動させる。腹の底から「うーん」としぼり出すチャクラの音霊といえば、故ジェームズ・ブラウンの歌うウ音の多いディープ・ブルースの世界だ。

性を歌と踊りで表現する手法は、白人の世界にはないといわれる。だから日本でいうピンク映画が、英語ではblue filmと呼ばれるのだ。このblueの世界は、性的交歓(まぐわい)を是とする密教の世界と融合するのだ。

幽玄は、どちらも幽(かす)かに見える幽遠な存在を表している。同じ「うー」の母音世界にありながら、うーうーと強く引き伸ばすように、英語で発声してもoomphという、イク寸前のきわどい音になる。私も文章に下ネタが多いと女房にもいわれるが、自分では密教的なのだと弁護している。

下ネタスピーチといえば野球のイチローが有名だ。3月24日、韓国とのWBC決勝戦で延長10回表に歓喜の決勝打を放った直後のイチロー(マリナーズ)はこんな絶頂発言をした。
「気持よかったですね。ほぼイキかけた。日本のすべての方に感謝したい」と。

球団関係者は証言する。「あの『イキかけた』は、イチローの裏語録の中でも頻出単語なんです。…テンションが高くなると下ネタも舌好調≠ノなるみたいですね」(『アサヒ芸能』5月7−14日号。P.32)

そうこのテンションが高くなる前の音霊をoomph(ウーンフ)と表現する。辞書には、性的魅力、胸にぐっとくるような力、精力、元気、と出ているが、まだ見えない。いやまだ聞こえない。

あのウーウーという呻きを原点とする、ウの音霊のパワーを公言したのがアメリカのオバマ大統領だ。この活字になりにくい、音霊を軽々しく使ったところ、ある日刊紙の大見出しにOOMPHと出た。オバマはウーンと考え込んで、不快感を示した。

このoomphには教祖的魅力という意味があるから、オバマのカリスマ性と捉えてもいいが、このoomphには、ウフン、ウッフーン(女の鼻声)からくる性的魅力が含まれるから、その言葉を口にしたオバマもそれが見出し出されたときには、さぞ赤面したことであろう。

ウはウンコ(英語ではpoop)のウ、おしっこの「シ」はpee。横に流れ始めたらとまらない。ウーとイーの違いは、英語(poopとpee)からも学べる。だから、oomphは決していい響きの英語とはいえない。

その点、指揮者のバーンスタインは、そこまで露骨な表現を避ける。インタビューされた時も、「私がやりたい仕事は、知的オーガズムを感じさせるものだ」と語った。Intellectual orgasmをgiveしてくれる仕事とは巧く表現したものだ。

「ウー」という文明化されていない音霊を使って、自己の哲学を低俗化することはない――ユダヤ人らしい。イチローのように「いく」という下品な表現は用いない。この「いく」も昔は「ゆく」と発音した。「ユ」音だった。

 

2009年8月21日
紘道館館長 松本道弘