関西弁でじゅんさいな人といえば、さわやかな感じを与えるが、だれにも心を寄せない人のことを指す、けなし言葉の一つ。このじゅんさい(蓴菜)とは、スイレン科の水生の多年草。5、6月ごろの若芽、若葉は食用となり、珍重される。ぬなわともいうが、私はこの「ぬなわ」(沼縄)という音霊に魅かれる。じゅんの「ユ」の音霊も気になる。『大阪ことば事典(牧村史陽編)』(講談社学術文庫)でこの「じゅんさい」を調べてみた。
『辞苑』に「じゅんさいもの」というところに「他人の機嫌を見はからって、言葉巧みに調子を合わせる人」とあるように、この語には、お上手、おべんちゃらの意が多少含まれるようである。『全国方言辞典』には、「@いいかげん。でたらめ。ジュンサイなことを言う。… A虫がいい。勝手。… B従順。…」(P.324)
これらの解釈は、意味論の分野に入る。つまり、「じゅんさい」という名詞の言葉だけではわからない。語源を見ると、そのシンボルが浮かび上がってくる。ここまでは翻訳者の領域。しかし、通訳者はさらに語用論(プラグマチックス)を加えるものだから、TPOを考え、ぐるぐると思考を巡らせる。じゅんさいな芸人といわれる所以である。通訳者は、話者にベタついてはいけないという職業倫理がある。smoochyな人間は、業界からもじゅんさいなやつと、きらわれる。
ではその反対は? 私はTeflonを勧める。Teflonとは『商標』テフロンの商品名:絶縁材料、コーティング材として用いられる。「(口)いくら非難されても悪い評判は付かないですむ状態」(リ英和)。ジーニアス英和大辞典には、「スキャンダル(など)を寄せつけない」という訳も載せている。
サラサラ、じゅんさいをTeflonと商標を使って表現をした。その反対に、ベタベタするねちっこいタイプは、Velcroだ。ベルクロとは、《商標》ベルクロ(ナイロン製の付着テープ)のことだ。現在ではマジック・テープと呼ばれている。
女性同性愛者、レズ(Velcroの圧着とレズどうしの陰部の圧着との連想から)のことをVelcro(ヴェルクロウ)という。この「オウ」の二重母音に、ベターッとしたものを感じる。
TIME誌でおもしろい表現を見たことがある。仕事は仕事とわりきった人はテフロンで、ちょっとした縁を逃さずベタつく人はベルクロだと、おもしろい比較分析をしている。
ベルクロは和製英語ではマジック・テープと呼ばれているが、これは、鉤状とパイル状の表面を持って2枚一組からなり、重ね合わせて留めるテープ(商標名)のことなので、まぎらわしい。
ついでに、マジック・ミラーという和製英語も通じないことも併せて述べておきたい。正しくは、one-way glass(mirror)のこと。なるほどカタカナ英語か、おもしろいな、とちょっと火がついても、すぐに消え、次の話題に移る人は、Teflonタイプ。いや行き過ぎた和製英語を取り締まるべきだ、とネチネチと訴えている私は、Velcroタイプの人間だといえよう。同じベタベタといっても、未練たらしくて、いちゃつきたがるsmoochyなタイプではない。
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