“Everything that is good about me, I think I got from her.” (「OBAMA」 from Promib to Paver P24)
オバマは、若者(ディヴィッド・メンデル)のインタビューに答えて、子のように語った。
「〜ゆずりの」は、inherit (genetically)といった日本人好みのビッグ・ワードは使わない。Getだけでいい。オバマの母の名前は、Stanley Ann Dunhanで、周囲にはAnnで通している。著者は、オバマの道徳律(モーラル・コンパス)は、マハトマ・ガンジー、キング牧師、聖書といわれているが、実母が主に“道”(moral compass=道徳的磁石は、オバマ自身が好んで使っている)を教え込んだと断定している。
どんな価値観を母が息子に教えたのであろうか。
Honesty(正直=ウソはつかない)
Fairness(公平=えこひいきはしない)
Straight talk(二枚舌は使わない)
Independent judgment(人の判断に動かされない)
これらは、黒人により求められる資質だという。
黒人のプライドというのは、誇示すると白人からたたかれる。これはプライドではない。これ以上、私を傷つけると、反撃するよ。という裏のメッセージがあるから、同じプライドでも、専守の心がある。それがself-esteemである。オバマの好きな言葉で、たぶん、彼の母Annから受け継いだものだろう。オバマは自分の母をthe kindest, most generous spirit(最も優しくて、寛大なる聖母)と表現している。スピリットはソウルと違って、どちらも見えないが、存在が感じられず、それがゆえに周囲に影響を与える“霊”なのである。
どんな人間―肌の色にこだわらず―とも平等につきあった、人好きな太っ腹人間だったようだ。そんな白人の母が、父をどうして見限ったのか。黒人の父はan unceasingly restless and curious soul(絶えず落着きがなく、めずらしいものに目がない人間)、そして生涯を通して風来坊(a lifelong wanderer)であったといわれている。こちらはsoul。肉体を持った人間の魂なのである。黒人好みの「心」はsoulなのだ。女好きはアフリカの親父ゆずりなのかもしれない。女は男に従う者、という伝説的(イスラム的)価値観があった。いかに懐の深い厳格な母(Ann)であっても、男の言うことを聞かない女は、苦手ということになるだろう。
しっかりした女は、男を尻に敷く。
それに耐えられなく、ハーバード大へ行くといって、ハワイを出たまま帰らぬ人となった。オバマが2歳の時。
Annは、あんたのお父さんはひどい男、という刷り込み教育はしなかったはずである。それが母、そして妻としてのself-esteemだ。
その頃オバマは、よちよち歩き、自尊心がなくても、一人の人間としての自責(これはself-worth)があったはずだ。父の悪口は言わなかった母が立派だ。人のいいところだけを見る。(see the good in people)のが彼女の長所の一つ。本にはそんなことは書かれていない。たとえ、逃げた(逃がした)夫の悪口を言ったとしても、それを耳にした息子は苦しむばかり、肉親を心から憎むことのできないのが、骨肉の愛なのだが。きっと父の残像を求めて、心の旅に出る。オバマも私もそうだ。たぶん、私もそうであったように、私の息子たちもそうだろう。父と息子の間には、母親にわからない絆がある。オバマの父と父方の祖先のルーツを求めたセンチメンタル・ジャーニーは、涙を誘う。
白人の母がオバマに与えた遺伝子は、彼女の健気な哲学だけではない。学ぶ姿勢だ、子は親の背中を見て育つ。
母は、よく読んだ。書物が友人であった。何時間もじっと個室にこもり、異文化の研究、そして哲学をこよなく愛した。
オバマの読書好きも、母譲りだろう。
He got it from his mother.
彼女の成績はバツグンで、シカゴ大学への入学を許されたが、父が「自立するには、早すぎる。」(too young to be on her own)といって、思いとどまらせた。とにかく、大の読書好きなAnnは、16歳のころには、ほとんどの哲学者に精通していたという、恐ろしい母を持ったオバマだ。
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