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紘道館2月例会報告 |
(日時)平成20年2月3日
(場所)上野ハイツ |
松本道弘の30年
――NHK『英語でしゃべらナイト』来館す―― |
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○10:00〜12:00 館長講義 |
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近年にない大雪。外は白一色の世界が広がる。
“雪の降る町を”紘道館に向かった塾生たちを待っていたのは「今日はNHKの取材が入ります」という幹部からの伝達。一部の塾生を除いて秘密事項だったが、本日撮影が行われるのだった。
やがて登場した松本館長はいつもどおりエネルギッシュ。ペンを執り白板に書きつける。 |
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人生を変えろ! |
Turn yourself around ! |
英語に挑め! |
Take on your English with tough love! |
幸せをつかめ! |
Be happy! |
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字句からも跳ねるような弾力が感じられるのは、やはりNHK出演以来大きく変わった自らの人生に思いを馳せたからであろう。いまにして“世に出るのが早すぎた”と回想するNHK英会話番組への登場。嫉妬も誘惑も人心の変わりやすさもたっぷりと味わった松本館長が30年の時を経て、再びNHKという自らの “マスコミ人生”の原点と相まみえることに、他人には窺い知れぬ感慨を抱いていることが見て取れた。
ほどなくして到着したNHK取材班。カメラ一人、音声一人、ディレクター一人という構成である。
「雪の中、ありがとうございます」声をかける松本館長。『英語でしゃべらナイト』の録画撮りである。口数少なく機材をセッティングし、撮影に入るスタッフたち。できるだけこちらの邪魔をしないように配慮しているのがわかる。
カメラとマイクを気にすることなく講義を続ける松本館長。いや館長は慣れていようが、塾生にとってはなかなか息苦しく、やりづらい状況であった。やはり目に見えない無数の人間の目が気になる。しかし館長はお構いなく発音練習などを進めていく。塾生の一人に『千の風になって』を歌わせるなど、今日も講義はユニークだ。
そして今日のネイティブのゲストを前に呼ぶ。技術者のナイル・ミナイ氏とゼンケン・キャリアセンターのブルース・ワイマン氏である。3人でさまざまな話題を展開する様子を、NHKのカメラが狙う。外人二人を両脇にした館長は貫祿十分、まさに絵になる構図を演出した。
講義前の全員正座しての気合や息の長さを競う発声練習など、『英語でしゃべらナイト』とは異質な世界だが、本当にいいのだろうか?
スタッフたちは淡々と作業を続ける。ディレクター氏がときに館長と打ち合わせ、カメラや音声に指示を出している。 “松本道弘の世界”をいかに映像に封じ込めるか、腐心しているようだ。
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松本道弘の30年
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ここで館長がとりだしたのが、一枚のDVD。そこには30年前にNHK英会話講師だった館長の番組が納められていた。
テレビに写る37歳の館長。髪は黒々、ジャケットは極上、顔にドーランなんか塗っちゃって、ポケットのハンカチーフもキザったらしくなんとも小生意気、小生意気で小癪でカミソリのような若き松本道弘が椅子に座っていた。
英語によるインタビュー番組で、相手はパメラ・サンダースというアメリカ人女性。演劇学校卒業後、アナウンサーやモデルなどを経験し、1979年に来日して国際会議研究所で勤務した実績を持つという人物である。
館長がこのときに選んだテーマは“Can Love and Friendship Coexist in Japan?”=「日本では恋愛と友情は両立するか」。なんだか昭和30年代青春映画みたいな話題のインタビューが始まった。
よどみなく英語で相手に話しかける館長。こんな調子で会話は始まる。
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松本 |
Well, welcome to the program, Pam. |
サンダース |
Thank you, Mr.Matsumoto. |
松本 |
Have you ever modeled? |
サンダース |
A very long time ago. |
松本 |
It is a personal slightest against you to be called a model, or is it beneath you ? |
サンダース |
Well, models are supposed to be very beautiful, so it's a compliment, but I'm an actress, so there's little bit of professional antagonism. |
松本 |
Ah, hah! It's not the question of whether or not it's beneath you. |
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・・・なめらかに話を進めていく若き松本館長。目をつぶればネイティブ同士の会話としか聞こえない。このとき館長は、まだ一度も外国に行ったことがなかった。
サンダース女史と互角に渡り合い、多くのwhyを連発(これがNHKに嫌がられた原因だそうだ)、笑顔を浮かべていても目元には緊張が張りつめている。会話は流暢で、なんの滞りもない。すべて完璧に見える。
しばらく眺めてからスイッチを消し、皆に顔を向け口を開いた。
「こんな英語、いま聴くと恥ずかしい。皆さんに聴いてほしくない」
慙愧の念に耐えぬような表情をする。館長の言う“こんな英語”にとてもついていかれないわれわれ塾生は当惑するしかない。
37歳の自分の英語に鞭打つ67歳の館長。当時の自分の英語がいかに未熟か、具体的な論拠を挙げて説明する。本人にすれば、それなりの理由があるのだろう。
「この当時の私の英語を聴いてうまいと思ったとしたら、あなたがたの英語がダメだということです」
この言葉に驚いた。館長は平生、塾生の英語がいかに未熟であろうと稚拙であろうと、それをけなしたりクサすようなことは絶対ない。そんな館長が“あなたがたの英語がダメだということです”などと正面から刃を向けるような言い方をしなければならないほど、過去の自分の英語を糾弾せねば気がすまぬとは、それはもう向上心などというものではない。
一人の人間の内側に住み着いた鬼というか“業”のようなものだ。
「完璧な英語」――この世のどこにあるかわからない「完璧な英語」をいまだに館長は追い求めているのか。
そうした中でもキーポイントの説明がある。二人の会話に出てきたemotional crutchという単語に注意を促す。crutchは「松葉杖・支え」、emotional crutchで「精神的な支え」という意味である。
館長曰く「emotional crutchは『甘え』に近いね。ところが日本人は『甘え』をdependenceと訳すからわからなくなってしまう」
館長がサンダース女史に自分の意見を言う前置きにI may be wrongと言っている部分があるが、これが30年後のご本人にはいたくお気に召さぬようだ。
「I may be wrongとはなんだ。『間違っているかもしれませんが』とは。最初からそんな弱気でどうする。いまならCorrect me if I'm wrongとifを使うね」
のみならずタイトル―― “Can Love and Friendship Coexist in Japan?”にも問題ありとか。
「“coexist”なんてbig wordを使ったのが恥ずかしい。 いまならhave it both waysを使うよ」
反省する館長。NHKという影響力の大きなメディアで情報発信していた過去は、いまだに重くのしかかっているらしい。
「ボクが当時使った未熟な英語を現在、使っている人を見ると申し訳ないなという気がする」
――30年の歳月は、館長にとってなんであったか。英語の鬼才としてもてはやされ、金も人も寄ってきた青年時代。しかしマスコミの敷いたレールに乗れず、寒風吹きすさぶ未踏の荒野に足を踏み入れ、満身創痍となりながら日本人の英語学習に巨大な影響を与え続けた人生後半の日々。栄光も沈潜も、人々の真心も打算も、一匹狼として生きることの難しさも、あらゆることを身をもって経験したはずである。
周囲の誤解や嫉視、企業経営者としての苦悩や家庭問題、さまざまな試練をくぐり抜けて「今が一番幸せだ」と笑う67歳の松本道弘紘道館館長。
雪はまだ降り続いている。
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○12:00〜13:00 昼食 |
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○13:00〜15:40 バイリンガルディベート |
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英語かディベートか |
NHKのスタッフが帰る。お疲れさまでした。
午後はバイリンガルディベート。テーマは
『小学校では英語よりもディベート教育を導入するべきである』
Debating in Japanese should be encouraged in elementary schools rather than English language study.
小学校での英語授業導入に関して、さまざまな論がわきたっている。しかし、本当に重要なのは英語よりもディベートではないのか。
はっきり、議論しておく必要がある。
肯定側:小学校では英語よりもディベート教育を導入するべきである。
Debating in Japanese should be encouraged in elementary school rather than English language study. |
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ディベートを通して世の中には「他者」がいることが認識できる。自分以外にもさまざまな意見の持ち主がいるということが理解できるようになる。
多様性が受け入れられるようになれば、自分以外の人間がいるということがわかれば、いじめはなくなる。
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A |
ディベートを通して考える力が身につく。 |
B |
ディベートを通して、自分の意見の表現力が身につく。 |
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否定側:小学校では英語よりもディベート教育を導入する必要はない。
Debating in Japanese should not be encouraged in elementary school rather than English language study.
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@ |
英語は早くやればやるほと、身につく。 |
A |
英語のイントネーションなどは、早期にやらなければ時期を逸する。 |
B |
ディベートも重要だが、英語の方が優先順位が高い。 |
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・・・英語力は思考力、思考力を鍛えるにはディベートが最適、だから英語よりディベートを先にやるべし。こうした論理で武装した肯定側だったが、現代社会ではまず英語が大切という否定側の現実論も迫力があり、双方決め手を欠いた観あり。
ジャッジも2対1に割れたが、結局否定側の勝利になった。
さまざまな議論のある小学校の英語導入。子供の人生にとっても、日本国全体にとっても、よい結果が得られることを望まずにはいられない。 |
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○16:00〜18:00 TIME講義・同時通訳訓練 |
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TIME 2月4日号より
P5
In a country ruled by inept, corrupted generals, Bhutto was an icon of defiance and courage. In death she has become lager than life.
無能で腐敗した将軍たちが支配する国家で、ブットは反抗と勇気の象徴だった。彼女は死して命ある時以上の存在になった。
larger than lifeをいかに訳すかがポイント。死して後に象徴的存在に、言い換えれば永遠のヒーロー(この場合はヒロイン)になったことをどのように表現するかが問われる。
死してより大きな存在になった人物に誰がいるか? 館長が問いかける。もっとも大きな存在は、やはりイエス・キリストであろう。若くして世を去り、死後いよいよ名声が高くなった人物には、ジェームズ・ディーンやマリリン・モンロー、そしてブルース・リーなどが挙げられるか。彼らはlarger than life な伝説となった。
P44
We Just Clicked! Online matchmaking sites in the U.S. are eyeing millions of singles in China, India and beyond. Will love translate?
インターネットの結婚相手斡旋サイトが増えている。タイトルのclickedはもちろんパソコンマウスのクリックのことだが、「うまくやる・意気投合する」の意味もある。ここはこの二つの意味の掛詞。
TIMEのタイトルは、いつもながら奥が深い。
他に、同時通訳への挑戦。この数カ月で経験した印象に残るできごとを話している人の脇で、それを瞬時に英語に訳す訓練。紘道館ではときどきやらされる。最初はまったく、できない。それが回数を重ねるとできるようになるのが不思議。というより、できて当然という感覚になる。
何事も訓練。人は自分の能力を、見くびってはならない。
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18:00〜19:30 直会 |
今日も直会に至る。NHKの来訪はやはり大きな出来事だった。
一人ひとり紘道館に関して思うところを述べるが、現在20歳の大学生の発言に皆注目した。
「僕は2回目の参加なんですが、日曜日に僕のお爺ちゃんくらいの人たちが、8千円というお金を払って丸一日、勉強していることに驚きました。僕の大学の友達だったら、8千円あればブランドものを買ってしまいますよ。彼らにこの人たちを見よ!と言いたいですね」
そうか、彼にすれば紘道館塾生はすでにお爺ちゃんなのか・・・世代というものを考えざるを得ない。
「こういう世界があることを知らなかったなんて、この20年を無駄にしてしまったかという思いもあります。でも一方、この20年があったから僕は今日、ここに来られたのかなという気 もします。とにかく、紘道館に来られたことは、僕にとって大きな出来事です」
彼は16歳の頃引きこもりを経験している。また短期間だが海外留学も果している。若年にしてなかなか波瀾万丈の人生を送っているのである。
「いまコンビニでバイトしているんですが、高価なブランド品を着た高校生の男の子が、パチンコの雑誌を買っていくんですよ」
どうやら観察力もするどいようだ。
「若者だけでなく、すべての年代で日本人がおかしくなっているような気がしますね。レジで清算しているとき、お客さんがこちらと目を合わせないんです。『レシートいりますか』と聴いてもこんな(首をゆっくり左右に降る)ことをするだけで、一言も言葉を交わさない。
それから電子レンジでチンするだけの時間が待てなかったり、この前なんかお釣りが5円少なかっただけで、お客さんにひどく叱られました」
コンビニの店員さんて、見てないようでよく見てるんだな。あんまり味気ない態度は、たしかによくないかもしれない。
今日のネイティブのゲストは、ナイル・ミナイさん。日本滞在10年になり、日本語もできる。ところで今日はずいぶんいい背広を着てきましたね?
「ええ、NHKが来ると聴いたんで、こういう格好をしてきました(笑)」
ああ、偉大なるかなNHK! |
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文責 松崎辰彦 |
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2月25日のNHK総合テレビ『英語でしゃべらナイト』に松本道弘館長が登場します。どうぞご覧ください。 |
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次回の例会は3月2日、上野ハイツです。 |
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