映画『魂萌え(たまもえ)』を観て、魂が揺さ振られる思いがした。
「たましい」には、二種類がある。漢字で書けば、「魄」と「魂」となり、英訳すれば前者はsoulで、後者はspiritとなろう。
soulは肉体から離れないが、spiritの方は自由に出入りするから、肉体(body)の管制塔である心(mind)は、魄と魂という似て非なる二つの「たましい」の間を呻きながらさまよう。
やや抽象的な話になった。色彩学でいえば、女房としての魄は、夫という肉体から離れず、常に近くにいる緑で、愛人としての魂は青で、遠くにあって、物体に惹かれる精神である。
似て非なる存在というのは、実は「あお」の女の二面性のことである。近くにいて遠い ―― 離れることが許されない ―― グリーンな女房。遠くにいて近い ―― 近寄ることが許されない ―― ブルーな愛人。
導入部が長くなったが、映画『魂萌え』が話題になり、多くの人の涙を誘った背景には、妬むことの許されないブルーのたましいが萌えるという異常事態が生じたからだ。通常、草木のgreenが萌える。緑は嫉妬を象徴する俗なる色である。一方、聖であるべきブルーの心情(センチメント)は地中に埋れたままだ。
映画の中では、男が急逝する。残された古女房(59)の心にぽっかり穴が開く。その隙間を縫うように、夫の友人であった男が近付き、緑同士の危険な情事が発生する。緑の恋は、紅くなれば移ろいやすくなる。
孤閨を守る女房にとり、やっかいなライバルは、移ろわぬ愛人の青い「たましい」である。